歯周病

歯周病からの病気やトラブルとは?

歯周病から誘発される病気とは?

歯周病は多くの日本人が経験する口腔内の疾患の一つで、歯茎の腫れや出血、歯のぐらつきなどを引き起こします。最近の研究によれば、歯周病による炎症や細菌が体内に広がり、他の病気を誘発する可能性があるとされています。歯周病がどのように他の疾患に影響を与えるのか、具体的な病気についてなどのご説明します。

歯周病と全身疾患の関係

歯周病は、歯茎や歯を支える組織が細菌感染によって炎症を起こす病気で、歯茎の腫れや出血、歯のぐらつきなどが主な症状です。最近の研究では、歯周病が口腔内だけでなく、全身に影響を与える可能性が指摘されています。歯周病により口内で増殖した細菌が血流を通じて体内に広がり、さまざまな病気を誘発することがあるのです。その結果、心臓や脳、妊娠・出産、糖尿病などの健康問題に関わるリスクが増加します。

歯周病の影響が全身に及ぶメカニズムとしては、次の2つのポイントが注目されています。

1. 血流を通じた細菌の拡散

歯周病の原因菌は歯茎から血流に入り込み、全身に広がる可能性があります。例えば、歯茎が炎症を起こしていると血管壁が薄くなり、細菌や毒素が血流中に入り込みやすくなります。その結果、歯周病菌やその毒素が心臓、血管、脳などの重要な臓器に到達し、各臓器で炎症反応や障害を引き起こすことがあります。これにより、心臓病や脳卒中などのリスクが高まるとされています。

2. 炎症物質の全身への拡散

歯周病に伴う炎症が続くと、サイトカインなどの炎症性物質が多量に生産されます。これらの物質は血流に乗って体内を巡り、他の臓器で炎症を引き起こす原因となります。このような慢性的な炎症状態が続くと、体の免疫機能が過度に反応し、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病にかかりやすくなると考えられています。

歯周病が誘発する代表的な病気

歯周病が進行すると、口腔内での細菌や炎症物質が血流を通じて体内を巡り、さまざまな病気を誘発する可能性が高まります。歯周病が関与すると考えられている病気をいくつかご紹介します。

1. 心臓病

歯周病と心臓病は、密接な関係があります。歯周病の原因菌が血流に乗り、心臓の血管壁に到達すると、そこで炎症を引き起こし、歯垢を形成します。その結果、動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞といった重篤な心臓疾患のリスクが高まると考えられています。特に、既に心臓疾患のリスクがある人では、歯周病の早期治療と予防が重要です。

2. 糖尿病

歯周病と糖尿病の間には双方向の関係があります。歯周病が悪化すると、炎症によってインスリン抵抗性が高まり、血糖値のコントロールが難しくなります。逆に、血糖値が高い状態は細菌の増殖を促し、歯周病を悪化させる要因となります。

この悪循環は糖尿病患者さんにとって深刻であり、歯周病の管理が糖尿病のコントロールにも大きな影響を与えることが明らかになっています。糖尿病患者さんには定期的な歯科健診と口腔ケアが推奨されています。

3. 認知症

歯周病と認知症の関係については、近年の研究で注目されています。歯周病菌やその毒素が脳に到達し、炎症を引き起こすことがあると考えられています。

特にアルツハイマー病においては、歯周病菌が脳内で見つかるケースがあり、歯周病が認知機能の低下や認知症リスクに関連する可能性が示唆されています。また、慢性的な炎症が神経細胞にダメージを与えることで、認知症の進行を早めるリスクもあるとされています。

4. 早産・低体重児出産

妊娠中の歯周病は、早産や低体重児出産のリスクを高める要因として知られています。歯周病により血流中に炎症物質が放出されると、妊娠を維持するホルモンバランスに影響を与え、早産や低体重児出産の原因となることが考えられています。

妊娠中はホルモンの変化によって歯茎が炎症を起こしやすくなるため、特に妊娠前からの口腔ケアや定期的な健診が重要です。

5. 呼吸器感染症

歯周病菌が口腔から呼吸器へと入り込むことで、肺炎や気管支炎といった呼吸器感染症のリスクが高まることも知られています。特に高齢者や免疫力が低下している方においては、口腔内の細菌が気道に入り込み、肺で炎症を引き起こすことが少なくありません。

呼吸器感染症は高齢者にとってかなり重大なリスクなので、歯周病の予防は肺炎などの感染予防にも繋がります。

心臓病と歯周病

歯周病と心臓病の関連は、近年の研究で明らかになりつつあります。一見繋がりがなさそうな二つの病気ですが、歯周病菌が血管に及ぼす影響によって関係しています。

歯周病が引き起こす口腔内の炎症が血管に影響を及ぼし、動脈硬化などの心血管疾患のリスクを高める可能性があるといわれています。この関連には、以下のようなメカニズムが関わっていると考えられます。

1. 歯周病菌が血管に侵入するメカニズム

歯周病が進行すると、歯茎が炎症を起こしやすくなり、血管の透過性が高まります。この状態では、歯茎の毛細血管から細菌が血流に侵入しやすくなり、歯周病菌が全身を巡ることになります。

特に、歯周病菌が血管の内壁に付着すると、そこで炎症を引き起こし、動脈硬化が進行する可能性があります。動脈硬化は、血流を制限し、血栓ができやすくなる原因となり、狭心症や心筋梗塞、さらには脳卒中のリスクを高めます。

2. 炎症性物質が引き起こす動脈硬化の促進

歯周病による慢性的な炎症が続くと、血中にサイトカインなどの炎症性物質が放出されます。これらの物質は、血管内の細胞にダメージを与え、動脈硬化を促進します。動脈硬化が進行すると、血管の弾力性が失われ、血管が狭くなることで心血管疾患が発症しやすくなります。

3. 血小板との相互作用

歯周病菌の一部は血小板と相互作用しやすい性質を持っています。血小板は血液の凝固に関与する細胞ですが、歯周病菌が血小板に付着すると、血小板が活性化されて血栓(血の塊)を形成しやすくなります。これにより、冠動脈内に血栓ができやすくなり、心筋梗塞などの重大な心血管イベントが発生するリスクが高まります。このメカニズムは、特に動脈硬化が進行している患者さんにとって重要であり、歯周病の管理が予防策として役立つ可能性があります。

4. 免疫反応による血管壁の損傷

歯周病が進行すると、免疫系が過剰に反応し、自己免疫反応が引き起こされる場合があります。免疫細胞が過剰に活性化されると、血管壁を攻撃し、細胞を損傷することがあります。その結果、血管壁の内皮細胞に損傷が生じます。特に慢性炎症が続く歯周病のケースでリスクが高く、血管の健康に重大な影響を及ぼすと考えられています。

このように、歯周病が血管に及ぼす影響は、心血管疾患の発症リスクを高めるため、毎日の丁寧な歯磨きが重要です。歯周病の予防には、正しい歯磨きや定期的な歯科健診、さらに必要に応じてクリーニングを受けることが求められます。心血管疾患のリスクがある患者さんは、歯周病を予防することで血管の健康を守り、全身の健康維持にもつながります。

糖尿病と歯周病の相互作用

糖尿病と歯周病の間には双方向の関係があることが知られています。歯周病により炎症が進むと、インスリンの働きが阻害され、血糖値がコントロールしにくくなります。その結果、糖尿病が悪化するだけでなく、歯周病の治療が難しくなることもあります。

糖尿病患者さんは歯周病のリスクが高く、また歯周病が悪化すると糖尿病の管理も難しくなるという「悪循環」が生じます。この相互作用にはいくつかの重要なメカニズムが関わっています。

1. 高血糖が歯周病を悪化させる

糖尿病患者さんは高血糖状態が続きやすいため、細菌が増殖しやすい環境が口腔内に生まれます。血糖値が高いと、歯茎の血流が減少し、免疫機能も低下することから、感染症にかかりやすくなります。

その結果、歯周病菌に対する体の抵抗力が弱まり、炎症が進みやすくなります。さらに、血糖値が高いと傷の治りが遅くなり、歯周病の進行が早まる要因となります。

2. 歯周病による炎症が血糖コントロールに影響を与える

歯周病が進行すると、炎症性サイトカインが血流に放出され、全身に広がります。これらの炎症性物質はインスリン抵抗性を引き起こし、インスリンの効きが悪くなるため、血糖コントロールが難しくなります。

その結果、血糖値が高くなり、糖尿病の症状が悪化するという悪循環に陥ることがあります。この相互作用は、糖尿病患者さんにとって特に重要であり、歯周病の治療が血糖コントロールの改善に寄与するケースも多く見られています。

3. AGEs(終末糖化産物)による組織の破壊

糖尿病患者さんの体内では、終末糖化産物(AGEs)が多く生成されます。AGEsは血糖がタンパク質と結びついてできる物質で、組織の硬化や損傷を引き起こします。AGEsが血管や歯茎の組織に蓄積すると、炎症が引き起こされ、歯周病が進行しやすくなります。

また、AGEsは免疫細胞の働きを低下させるため、感染症に対する抵抗力が落ち、歯周病菌に対する防御がさらに弱まることも確認されています。

4. 糖尿病患者さんにおける治癒力の低下

糖尿病の特徴として、体の自然治癒力が低下していることがあげられます。傷が治りにくくなるため、歯周病が悪化しやすく、治療後の回復も遅れることが多いです。例えば、歯周外科手術の治癒が遅れたり、再発リスクが高まることがあります。そのため、糖尿病患者さんにとっては、予防的なケアがより重要になります。

5. 歯周病の治療が血糖値改善につながる可能性

歯周病の治療が血糖コントロールに良い影響を与えるケースもあります。歯周病の治療により、口腔内の炎症が軽減されると、炎症性サイトカインの生成が抑えられ、インスリン抵抗性が改善されることがあります。その結果、血糖値が下がりやすくなることが報告されており、糖尿病患者さんにとって歯周病の治療は二重のメリットがあるとされています。

糖尿病と歯周病の相互作用は、どちらの病気にも悪影響を与えるため、双方のケアが重要です。

歯周病が及ぼす影響を軽減するための予防策

歯周病の影響を最小限に抑えるために、次のような予防策を心がけましょう。

  • 定期的な歯科健診・・専門の歯科医による健診を受けることで早期発見が可能になります。
  • 正しい方法で歯磨きする・・歯垢の除去に効果的な歯磨きを行うことで、歯周病の予防が期待できます。
  • 健康な生活習慣の維持・・栄養バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、免疫力を高めることも歯周病予防には大切です。

まとめ

歯周病は単なる口腔内の問題に留まらず、心臓病、糖尿病、認知症、早産、そして呼吸器感染症といった全身の健康に多大な影響を与える可能性があります。これらのリスクを最小限にするためには、毎日の歯磨きや定期的な歯科健診とクリーニングによって歯周病の予防と管理を徹底することが重要です。

この記事の監修者
医療法人真摯会 梅田クローバー歯科クリニック
院長 久野 喬

2014年 松本歯科大学卒業卒業。日本障害者歯科学会 認定医。ACLS講習終了。日本口腔インプラント学会。日本小児歯科学会。日本接触嚥下リハビリテーション学会。

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梅田クローバー歯科クリニック

大阪矯正歯科グループ大阪インプラント総合クリニック