矯正歯科

IPRをする理由と注意点とは?

IPRをする理由と注意点とは?

「えっ…歯を削るんですか?」 矯正治療の説明を受けたとき、そう驚かれた方も多いのではないでしょうか。歯は一生もの。削るなんて怖いし、本当に必要なのか、不安になりますよね。

特に「IPR(Interproximal Reduction)」という処置、つまり歯の側面を少しだけ削ると聞くと、「なぜそんなことをするの?」と疑問に思うのも無理はありません。私たちは小さな頃から「歯を大切にしなさい」と教わり、虫歯にならないように一生懸命ケアしてきました。そんな大切な歯を、治療のためとはいえ削るなんて…抵抗を感じるのは当然のことです。

でも、IPRにはきちんとした理由があり、歯並びや噛み合わせを整えるためにとても大切な役割を果たします。適切に行えば、健康を損なうことなく、美しく機能的な歯並びを手に入れることができるのです。

では、具体的にIPRが必要な理由とは? どんな注意点があるのでしょうか? この記事では、その疑問にお答えしていきます。あなたの大切な歯を守りながら、最適な矯正治療を受けるために、ぜひ最後までお読みください。

IPR(ディスキング)とは?

IPR(Interproximal Reduction)は、矯正治療において歯と歯の間のエナメル質を微量に削ることでスペースを確保し、歯並びを整える方法です。削る量は通常0.2〜0.5mm程度と、ごく少量。歯にダメージを与えずにスペースを作ります。

処置は専用のヤスリやドリルを使って行い、痛みを感じることはほとんどありません。また、麻酔も基本的には不要なので、安心して受けられます。IPRは矯正治療の計画の一部として歯科医師が慎重に行うものであり、単に歯を削るのではなく、歯のバランスや噛み合わせを考慮しながら計画的に行われるものです。この処置により、抜歯を避けつつ歯列の調整が可能となります。

IPRを行うタイミングは、矯正装置を付ける前か、または装置を使って治療が始まってから、しかるべきタイミングで行います。

IPRは単独で行うものではなく、矯正装置をつけての治療のオプションとなります。

IPRを行う理由

歯のスペースを確保するため

歯並びを整えるためには、歯を正しく移動させるスペースが必要です。特に歯が大きめの方や、顎のサイズが小さい方にとっては、スペース不足が原因で歯並びが乱れることがよくあります。IPRを行うことで、わずかなスペースを作り、より自然な歯列を形成できます。

抜歯を避けるため

従来、矯正治療ではスペースが足りない場合、抜歯が必要とされることがありました。しかし、IPRを行うことで、抜歯せずに歯を動かせる可能性が高まります。歯を抜かずに済めば、歯の本来の機能を保ちやすく、治療後の噛み合わせもより自然になります。

ブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)を防ぐ

歯の形状によっては、矯正後に歯と歯の間にすき間ができてしまうことがあります。このブラックトライアングルが生じると、見た目の問題だけでなく、歯の間に食べかすが詰まりやすくなり、口腔衛生にも影響します。IPRで歯の形を整えることで、見た目の美しさを向上させるだけでなく、歯の健康を保つことにもつながります。

歯と歯の間にできる三角形の隙間(ブラックトライアングル)は、見た目だけでなく、歯垢がたまりやすくなって歯周病のリスクが高まります。IPRを行って矯正装置をつけて歯を動かすことで、これらの隙間を減少させることが可能です。

歯のサイズの調整

上下の歯のサイズがアンバランスな場合、IPRを用いて歯の幅を調整し、噛み合わせを改善することができます。その結果、より自然で美しい歯列を実現できます。

IPRの方法と手順

ヤスリを使用する方法

やすりを使用するIPR

歯と歯の間に専用のヤスリを挿入し、手動でエナメル質を削ります。細かな調整が可能で、特に前歯の処置に適しています。

回転する器具を使用する方法

回転する器具で削るIPR

タービンやダイヤモンドバーなどの歯科用回転器具を使用して、エナメル質を削ります。効率的に処置が進められるため、複数の歯に対して行う場合に適しています。

研磨の重要性

削った後の歯の表面はざらつくため、研磨して滑らかに整える必要があります。滑らかにすることで、歯垢が付くのを防ぎ、虫歯や歯周病のリスクを減らします。

IPRのメリットとデメリット

歯科医師

メリット

  1. 非抜歯でのスペース確保・・抜歯せずに、歯を動かすために必要なスペースを確保できます。
  2. 治療期間の短縮・・効率的にスペースを作り、治療期間を短縮できる場合があります。
  3. 審美性の向上・・ブラックトライアングルの解消など、見た目の改善にも役立ちます。

デメリット

  1. エナメル質の減少・・削ることでエナメル質が減少し、歯の耐久性が若干低下する可能性があります。
  2. 知覚過敏のリスク・・処置後、一時的に知覚過敏が生じることがあります。
  3. 適切なケアの必要性・・削った部分は虫歯のリスクが高まるため、歯磨きを丁寧にする必要があります。

IPRを行う際の注意点

削りすぎのリスク

エナメル質を削りすぎると、知覚過敏を起こしたり、歯の強度が低下し、将来的な問題を引き起こす可能性があります。多く削り過ぎないことが重要です。

衛生管理の重要性

処置後の歯の表面は、歯垢が付着しやすくなるため、毎日歯磨きや定期的な健診でのクリーニングで適切にケアすることが重要です。

ブラックトライアングルの解消

歯と歯の間にできる三角形の隙間(ブラックトライアングル)は、特に歯周病や歯の移動による歯茎の後退が原因で生じることがあります。IPRを行ってから矯正治療を行うことで歯と歯の接触面積を増やし、隙間を目立たなくすることが可能です。その結果、審美的な改善が期待できます。

IPRが適している症例と適さない症例

適している症例

  1. 軽度から中等度の不正咬合
  2. 歯と歯の間の隙間が不足している場合
  3. ブラックトライアングルの改善が必要な場合

適さない症例

  1. エナメル質が薄い場合
  2. 重度の不正咬合で抜歯が必要な場合
  3. 歯周病などで歯茎が著しく後退している場合

IPRに代わる治療法

IPRが適さない場合、以下の代替治療法が検討されます。

抜歯

重度の不正咬合やスペース不足の場合、小臼歯の抜歯が選択肢となることがあります。抜歯によって確保したスペースで、効率的に歯列を整えることが可能です。

顎を大きくする

矯正器具を使用して顎を拡大し、歯列全体にスペースを作る方法です。特に子供や若年者に適しています。大人は既に骨の成長が終わっているため、装置をつけてもあまり大きくなりません。

臼歯の後方移動

臼歯を後方に移動させることでスペースを作り、歯を少しずつ奥へ移動させていく方法です。主にマウスピース矯正で行われる方法で、小臼歯の抜歯やIPRを避けることができる場合があります。しかし、後方移動をするために親知らずの抜歯が必要なケースもあります。

まとめ

IPRは怖くない!
IPRは、矯正治療の成功をサポートする重要な処置のひとつです。「歯を削る」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、適切に行えば歯の健康に悪影響を与えることはありません。

大切なのは、信頼できる歯科医師と相談しながら、自分に合った矯正方法を選ぶこと。IPRを正しく理解し、不安を解消しながら、理想の歯並びを手に入れましょう!

IPRは、エナメル質を削ることで歯列を調整する方法で、ワイヤー矯正、裏側矯正、マウスピース矯正のオプションとして行われます。数本の歯を削ってスペースを作るため、適切な計画と歯を削る際の注意が必要です。

IPRの適応や注意点をしっかりと理解し、患者さんお一人おひとりに合った治療を選択することが重要です。

この記事の監修者
医療法人真摯会 梅田クローバー歯科クリニック
院長 久野 喬

2014年 松本歯科大学卒業卒業。日本障害者歯科学会 認定医。ACLS講習終了。日本口腔インプラント学会。日本小児歯科学会。日本接触嚥下リハビリテーション学会。

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梅田クローバー歯科クリニック

大阪矯正歯科グループ大阪インプラント総合クリニック